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鹿児島地方裁判所 昭和52年(ワ)305号 判決 1978年10月26日

原告(反訴被告)

堀之内将人

ほか一名

被告(反訴原告)

株式会社渕紙

被告

山下兼平

主文

被告山下兼平は、原告堀之内将人に対し金一四万一二〇七円、原告堀之内慶子に対し金六六万八四六〇円並びに右各金員に対する昭和五二年二月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告山下兼平に対するその余の本訴請求、被告株式会社渕紙に対する本訴請求をいずれも棄却する。

被告株式会社渕紙の原告らに対する反訴請求を棄却する。

訴訟費用は、本訴につき、原告らと被告山下兼平との間に生じた分はこれを五分し、その三を同被告の負担とし、その余を原告らの負担とし、原告らと被告株式会社渕紙との間に生じた分は原告らの負担とし、反訴につき、被告株式会社渕紙の負担とする。この判決は、主文第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  原告ら

1 被告らは連帯して、原告堀之内将人(以下「原告将人」という)に対し六五万四六八〇円、原告堀之内慶子(以下「原告慶子」という)に対し七〇万五九六〇円並びに右各金員に対する昭和五二年二月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行の宣言

二  被告ら

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(反訴について)

一  被告株式会社渕紙(以下「被告会社」という)

1 原告らは被告会社に対し、各七万五〇〇〇円宛及びこれに対する昭和五二年六月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  原告ら

1 被告会社の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告会社の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1 本件事故の発生

(一) 発生時 昭和五〇年九月五日午前八時頃

(二) 発生地 鹿児島市冷水町一三四番地先路上

(三) 被告車 普通乗用自動車、運転者被告山下兼平(以下「被告山下」という)

(四) 原告車 普通乗用自動車、運転者原告将人、同乗者原告慶子

(五) 態様 被告車が停車中の原告車後部に追突し、その衝撃で原告車がさらにその前方に停車中の自動車に衝突

2 本件事故による原告らの受傷と治療経過

(一) 原告将人は外傷性頸部症候群の傷害を負い、昭和五〇年九月五日及び同月一〇日の二回厚地脳神経外科において通院治療を受けた。

(二) 原告慶子は顔面打撲、外傷性頸部症候群の傷害を負い、同月五日同病院で治療を受け、同月八日から同月二〇日まで同病院に入院し、同日退院後も同年一〇月二八日まで通院治療(内実治療日数一五日)を受けた。

3 責任原因

(一) 被告山下は、前方注視をせずに被告車を走行させ、前方に停車していた原告車の発見が遅れた過失により本件事故を発生させたから、民法七〇九条の責任がある。

(二)(1) 被告会社は被告車を保有し、被告車を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の責任がある。

(2) 被告山下は被告会社に自動車運転者として雇傭されているところ、被告会社寮から同僚を被告車に同乗させて被告会社に出勤のため走行中、前記過失により本件事故を発生させたものであるから、右事故は被告会社の事業の執行につき発生したというべきであり、被告会社には民法七一五条の責任がある。

(3) 原告らと被告会社との間で、昭和五〇年一〇月一〇日頃、本件事故により原告らの蒙つた損害については、被告会社において被告山下とともに弁済する旨の合意が成立した。

4 原告らの損害

(一) 原告将人(合計六五万四六八〇円)

(1) 治療費(診断書料を含む) 一万九四八〇円

(2) 慰藉料 一〇万円

原告将人は鹿児島市役所の近くで「出雲そば」という飲食店を、妻の原告慶子と従業員一名を使用して経営しているところ、夫婦そろつて休業すると無収入となるので、通院も最少限に止め、首筋の痛みをこらえて営業を継続したが、今日に至るまで肩こり等が残り、指圧、温泉治療を続けている。この精神的苦痛に対する慰藉料としては一〇万円をもつて相当とする。

(3) 営業上の損失(四八万五二〇〇円)

(a) 売上減による損失 四〇万円

原告慶子は本件事故前「出雲そば」の売上げの三分の一以上を占める出前を担当していたが、本件受傷により少くとも五四日間稼働できず、また、同店に出勤するようになつてからも直ちに出前による販売額を従前のとおり回復することができなかつたため、これにより八三万円を下らぬ売上減をみた。そば、うどんを主体とする飲食店の場合は売上げの半分以上の利益があるので、原告将人は少くとも四〇万円の得べかりし利益を喪失した。

(b) 支出の増加 八万五二〇〇円

原告慶子が就労できなかつたため、同原告に代り店内の仕事を担当する者として、春山愛子を同年九月五日から同月二四日までアルバイト店員として採用し、その賃金として三万円を支出せざるをえなかつた。

また、それまで同店にパートタイマーとして雇傭していた谷添貞子を同月五日から同年一〇月三一日までの間のうち四六日間勤務時間を毎日四時間延長して労働させ、その対価として五万五二〇〇円(時間単価三〇〇円)を支払つた。

(4) 弁護士費用 五万円

(二) 原告慶子(合計七〇万五九六〇円)

(1) 入通院治療費 二五万五九四〇円

(2) 電気治療費(七回分) 五六〇〇円

(3) 身体均整法調整料(三回分) 五〇〇〇円

(4) 薬品代 一九二〇円

(5) 家政婦賃金 八万七五〇〇円

原告ら一家には原告慶子以外に女手がないため、同原告は同年九月六日から同月三〇日まで一日三五〇〇円の日当で瀬戸口チノを雇傭したが、右賃金合計は八万七五〇〇円である。

(6) 慰藉料 三〇万円

原告慶子は入院治療中毎日行われる喉仏直下に対する筋肉注射への恐怖と家事が気がかりのため早目に退院したものであり、これら本件傷害による精神的苦痛に対する慰藉料としては三〇万円が相当である。

(7) 弁護士費用 五万円

5 よつて、被告らは連帯して、原告将人に対し右損害合計六五万四六八〇円、原告慶子に対し同七〇万五九六〇円並びに右各金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五二年二月一五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

二  請求原因に対する被告らの答弁

1 請求原因1の事実につき、被告山下の関係ではこれを認め、被告会社の関係では知らない。

2 同2の事実は知らない。

3(一) 同3の(一)の事実につき、被告山下の関係でこれを認め、被告会社の関係では知らない。

(二)(1) 同3の(二)の(1)の事実につき、被告会社はこれを否認する。

被告車は被告山下の所有する自動車である。

(2) 同(2)の事実につき、被告会社は、被告山下の過失の点は知らない、その余の点は認める。

本件事故は被告会社の事業の執行につき発生したものではない。

(3) 同(3)の事実は否認する。

4 同4の事実は争う。

三  被告山下の主張

1 本件事故による損害については、原告らと被告山下との間において、昭和五〇年九月末頃次のとおりの内容の和解契約が成立している。

(一) 被告山下は原告将人に対し破損した原告車と同型の新車を引き渡す。

(二) 右新車の引渡までの間、原告らが本件事故に関連して支出する交通費(タクシー代)を同被告が支払う。

(三) 右(一)及び(二)の約定が履行されたときは、原告らの人身事故による損害の填補は被告車の自賠責保険の給付金の範囲内で処理することとし、その余の分は原告らから被告山下に請求しない。

2 被告山下は右(一)及び(二)の約定を履行した。しかして、同被告は原告らに対し、原告らの人身事故に関する自賠責保険金請求に必要な関係書類を持参提供した。

四  右主張に対する原告らの答弁

被告山下の右主張事実は争う。

(反訴について)

一  請求原因

1 本訴請求原因1の事故は、被告山下が自己所有の被告車を自己の用のため走行中発生させたものであり、被告会社には自賠法三条による責任も、民法七一五条による責任も存しない。

2 原告らは、本訴提起前における被告山下との本件事故に関する示談交渉中に右事実を十分に知りながら、不法、不当にも被告会社を相手方として前記の如き本訴を提起した。

3 これにより、被告会社は本訴に対する応訴のため弁護士渕ノ上忠義に訴訟委任をせざるをえなくなり、昭和五二年六月三日その弁護士報酬として同弁護士に対し一〇万円(原告将人に関する分として五万円、原告慶子に関する分として五万円)を支払つた。また、原告らの本訴提起により被告会社の受けた精神的損害の程度は五万円を下らない。

4 よつて、原告らは被告会社に対し、右損害賠償として各七万五〇〇〇円宛及びこれに対する遅滞後の昭和五二年六月四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

二  請求原因に対する原告らの答弁

1 請求原因1の事実は否認する。

2 同2の事実のうち原告らが被告会社を相手方として本訴を提起したことは認めるが、その余の点は否認する。

3 同3の事実のうち、被告会社が応訴のため弁護士渕ノ上忠義に訴訟委任したことは認めるが、その余の点は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本訴請求原因一の事実は、原告らと被告山下との間では当事者間に争いがなく、原告らと被告会社との間では成立に争いのない甲第一、第一二、第一三号証によりこれを認めることができる。

二  原告将人本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第二号証の一、二によれば、本訴請求原因2の(一)の事実を認めることができ、原告慶子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第三号証の一、二によれば、同2の(二)の事実を認めることができる。

三  本件事故発生に関する被告山下の民法七〇九条の責任原因につき、原告らと同被告との間では当事者間に争いがなく、原告らと被告会社との間では前記甲第一二、第一三号証、成立に争いのない甲第一四ないし第一六号証によりこれを認めることができる。

四  そこで、本件事故について被告会社の責任について検討する。

被告山下は被告会社に自動車運転者として雇傭されているところ、本件事故は同被告が被告会社寮から同僚を被告車に同乗させて出勤のため走行中発生させたものであることは当事者間に争いがない。

前記甲第一三号証、証人安楽博文の証言、被告山下本人尋問の結果によれば、被告車は被告山下が昭和五〇年七月頃自己の資金で購入して所有していたもので、同被告は被告車を当時居住していた被告会社寮から被告会社への通勤及び退社後の定時制高校への通学等に使用しており、出社時には被告車を被告会社が第三者から借り上げていた駐車場に駐車させていたが、その駐車料金はその利用者において分担負担しており、日頃被告山下において被告車を被告会社の社用のため使用したことはなく、また、被告車の燃料費や維持費を被告会社が支給した事実もないことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

右認定事実によれば、被告会社が被告車を所有していた事実は存しないうえ、被告車の運行に関し、被告会社がこれを支配したり、これによる利益を受けていたとも認め難いから、本件事故につき被告会社に自賠法三条の運行供用者責任を肯認することはできない。

また、右事実によれば、被告山下は被告会社の従業員であつて、平素被告車を被告会社への通勤に使用し、本件事故も、同被告が被告会社寮から同僚を被告車に同乗させて出勤する途次発生したものであるけれども、被告車が右のような態様で使用されていたことをもつて、直ちに被告会社の業務の執行に関連して使用していたとみることは困難であるし、他に、被告車が被告会社の業務のため使用されていたことを窺わせるに足りる証拠は存しないから、被告会社につき民法七一五条の使用者責任を認めることもできない。

原告らは、被告会社との間に本件事故による原告らの損害を被告会社で弁済する旨の合意が成立した旨主張し、原告将人本人尋問の結果中にはこれに副う部分があるが、これを成立に争いのない乙第四号証、証人安楽博文、同元野宏の各証言に対比して考えると、右部分は直ちに措信し難く、他にこれを肯認せしめるに足りる証拠はない。

右のとおりであるので、原告らの被告山下に対する本訴損害賠償請求は相当であるが、被告会社に対する請求はその余の点についての判断を俟つまでもなく理由がないことに帰する。

五  被告山下の和解契約成立の主張についてみるに、前記乙第四号証、証人安楽博文の証言、原告将人、被告山下各本人尋問の結果によれば、原告らと被告山下との間において本件事故に関し右主張の(一)及び(二)を内容とする合意がなされたことが認められるけれども、同(三)の内容の合意がなされたとの点については、証人安楽博文の証言及びこれにより真正に成立したものと認める乙第六号証の一、二、第七号証の一、二、被告山下本人尋問の結果中これに副う部分は、前記乙第四号証、原告将人本人尋問の結果に照らしにわかに措信することができず、他にこれを認むべき証拠はない。従つて、被告山下の右主張は採用することができない。

六  本件事故により原告らが蒙つた損害について検討する。

1  原告将人(合計一四万一二〇七円)

(一)  治療費 一万九四八〇円

前記甲第二号証の二によれば、原告将人は本件傷害の治療のため診断書料を含め一万九四八〇円を要したことが認められる。

(二)  慰藉料 三万円

前記認定のとおりの原告将人の本件受傷による治療経過、原告将人本人尋問の結果により認められる同原告は後記「出雲そば」の営業を休むことができないため、受傷による苦痛を押して仕事を続けたこと、かつ、首筋の腫れ等の障害が治療終了後も残つていたことなどを考慮すると、これによる精神的苦痛を慰藉するには三万円をもつて相当と認める。

(三)  営業上の損失 七万六七二七円

原告将人本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第六号証、原告慶子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第一八号証によれば、原告将人は鹿児島市役所近くに「出雲そば」の名称で妻の原告慶子及び従業員一名を使用して飲食店を営んでいたが、本件事故当時、同店における材料の仕入れ、仕込みのほか、売上げの三分の一以上を占める出前を原告慶子が専ら担当しており、同原告は事実上原告将人と一体となつて同店を経営していたとみられるところ、原告慶子が前記傷害の治療のため事故当日から昭和五〇年一〇月二八日まで入通院を余儀なくされて出前の営業が行われなくなり、同原告が退院後同店に出勤しても、出前はもちろん店内の仕事が十分にできず、また、同原告が休んだことにより出前による顧客が他店に移つてしまつたため、同原告に代る臨時の従業員を雇つたりしたにも拘らず、同年九月から一一月にかけ、事故前に比して売上げが相当減少したこと、しかして、同年一月から八月までの間の同店の売上げの一か月平均を算出すると五七万二六五七円(円未満切捨て、以下同じ)となり、本件事故後も少くとも毎月右平均額程度の売上げは上げえたと考えられるが、同年九月ないし一一月の各月の実際の売上額はいずれも右平均額を下廻るので、右三か月間における前記平均額との差額を算出すると五一万四六〇一円となること、同店の営業による純利益(売上額から売上原価及び諸経費を控除したもの)の売上額に対する割合を昭和四九年一月から一二月までの売上総額と純利益額により算出すると(昭和五〇年一月から八月までの分では純利益が明らかでないので、前年の昭和四九年度のものにより算出する。)、売上げの一四・九一パーセントが純益となり、本件事故当時も平均して右程度の純利益の割合であつたと推認されるので、右割合により前記差額五一万四六〇一円の純利益を算出すると七万六七二七円となることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうだとすると、原告将人は本件事故のため営業上少くとも右七万六七二七円相当の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を蒙つたということができる。

なお、原告将人は、原告慶子が就労できなかつたので、同原告に代り春山愛子をアルバイト店員として雇つて三万円を支出し、また、パートタイマーであつた谷添貞子の勤務時間を延長させてその対価として五万五二〇〇円を支払つたとして、右各金員を営業上の損失として請求しているが、他方、前記甲第一八号証、原告将人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告慶子に対しては同店における給料として毎月六万円が支払われているところ、同原告が本件事故で休んだため、二か月分の給料が支払われておらず、これにより原告将人は一二万円相当の支出を免れたことが推認できるから、これを前記の原告慶子が就労できないため支出したと主張する分と合わせ考慮すると、右支出分をもつて本件事故による営業上の損失と認めることはできないというべきである。

(四)  弁護士費用 一万五〇〇〇円

本件記録によれば、原告将人は本件訴訟の提起と追行を原告ら訴訟代理人に委任したことが明らかであるところ、原告将人に関する前記請求認容額、証拠蒐集の程度その他本件訴訟にあらわれた諸事情を考慮すると、同原告が本件事故による損害として請求しうる弁護士費用は一万五〇〇〇円が相当である。

2  原告慶子(合計六六万八四六〇円)

(一)  入通院治療費 二五万五九四〇円

前記甲第三号証の二によれば、原告慶子は本件傷害の入通院による治療のため診断書料を含め二五万五九四〇円を要したことが認められる。

(二)  電気治療費 五六〇〇円

原告慶子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第七号証によれば、同原告は昭和五〇年九月二七日から同年一〇月二四日までの間七回にわたり本件傷害につき電気治療を受け、合計五六〇〇円を支払つたことが認められる。

(三)  身体均整法調整料 五〇〇〇円

原告慶子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第八号証によれば、同原告は昭和五〇年一〇月頃三回にわたり本件傷害の治療として標記療法を施し、五〇〇〇円を支出したことが認められる。

(四)  薬品代 一九二〇円

原告慶子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第九号証の一、二によれば、同原告は本件傷害の治療のため同年九月八日頃頭痛薬、同年一〇月三日頃湿布薬を買い求め、合計一九二〇円を支払つたことが認められる。

(五)  家政婦賃金 五万円

原告将人、同慶子各本人尋問の結果並びにこれにより真正に成立したものと認める甲第一〇号証によれば、原告ら方では原告慶子が家事のほか原告将人の高齢の父の面倒をみていたところ、原告慶子が前記入通院のためこれができなくなつたので、同年九月六日から同月三〇日までの二五日間同原告の母瀬戸口チノに家事を処理してもらい、その賃金として一日三五〇〇円として八万七五〇〇円を支払つたことが認められるが、右支出につき本件事故と相当因果関係にある損害としては一日二〇〇〇円として合計五万円の限度で相当と認める。

(六)  慰藉料 三〇万円

原告慶子は本件傷害により前記のとおりの入通院を余儀なくされたこと並びに原告将人及び同慶子各本人尋問の結果によると、原告慶子は「出雲そば」の営業に欠かせない立場にあつたため退院後病苦に堪えて同店に出勤しており、その後も時折頭痛、腕の腫れ等の障害が出ることが認められ、その他、前記のとおり同原告は同店で毎月六万円の給料を得ていたが、本件事故により二か月分の給料の支給を受けられなかつたと推認されること等諸般の事情を勘案するときは、同原告に対する慰藉料としては三〇万円をもつて相当と認める。

(七)  弁護士費用 五万円

本件記録によれば、原告慶子は本件訴訟の提起と追行を原告ら訴訟代理人に委任したことが明らかであるところ、原告慶子に関する前記請求認容額、証拠蒐集の程度その他本件訴訟にあらわれた諸事情を考慮すると、同原告が本件事故による損害として請求しうる弁護士費用は五万円が相当である。

七  被告会社の反訴請求について検討する。

本件事故は被告山下が自己所有の被告車を走行中発生させたものであり、被告会社についての自賠法三条の責任も民法七一五条の責任も存しないことは前判示のとおりである。

ところで、被告山下は被告会社の従業員であつて、平素被告車を被告会社への通勤に使用しており、本件事故も被告会社寮から同僚を被告車に同乗させて被告会社へ出勤する途次に発生させたものであり、右のような事案においては、仮に被告会社が被告車を業務のため利用することを許容していたり、被告車の燃料費や維持費等を負担したりしていた事実が立証されるならば、被告会社について責任を負わしめることも考えられるところである。そして、本件証拠によつても、本件事故処理についての原告らと被告らとの折衝の経緯において、被告車の運行、利用等の状況に関して具体的な説明ないし話合いがなされたと窮わせるものはなく、他に、原告らにおいて被告会社に対する本訴請求権がないことを知りまたは容易に知りうる事情にありながらあえて本訴を提起したと認むべき証拠は存しない。

してみると、原告らの被告会社に対する本訴提起をもつて不法行為を構成するということはできないから、被告会社の反訴請求はこの点において既に理由がなく採用できない。

八  よつて、原告らの本訴請求のうち、被告山下に対し原告将人において前記損害合計一四万一二〇七円、原告慶子において同六六万八四六〇円並びに右各金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五二年二月一五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるからこれを認容し、原告らの被告山下に対するその余の本訴請求、被告会社に対する本訴請求並びに被告会社の原告らに対する反訴請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林五平)

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